2023.09.21
VIVANTを彩った砂漠の砂は世界を救えるか
TBS日曜劇場の「VIVANT」が先週日曜日に最終回を迎えました。
“最終回の平均世帯視聴率は19.6%”1)だったということなのですが、これはネット配信番組が人気の現代にあっては、驚異的な数字なのだそうです。ということで、「VIVANT」ではモンゴルで多くのロケが行われていたことをご存知の方も多いと思います。
モンゴルと聞いてイメージされるもののうちのひとつが「ゴビ砂漠」ではないでしょうか。
「VIVANT」でも、公式のX(旧・Twitter)で、“砂漠のシーンは南ゴビにある”ホンゴル砂丘””で撮影されたと紹介されています。
実は今年の8月、当社のお客様であるコンクリート二次製品メーカーBaiguulamj OD社((モンゴル国・ウランバートル市所在。以下「OD社」))にご案内いただいて、私もこのホンゴル砂丘に行くことができ、その壮大な光景に心を奪われました。
私が撮影した上のホンゴル砂丘の写真を見ていただくと、「VIVANT」公式Xにある“足跡が残りやすい”が良く分かっていただけるのではないかと思います。この足跡を“扇風機と箒と手で”消されたということで、その作業は途方もないことのように感じますが、「VIVANT」の美しい映像の裏では本当に地道な努力が行われていたのだと思うと頭が下がります。
さてこのホンゴル砂丘、“幅約100km、高低差最大約300m”2)ということで、それはもう莫大な量の砂がそこに存在するのですが、ここ最近様々なところで「世界中で砂が枯渇している」と言われています。
なぜなのでしょうか?
砂がなければ人類は文明的な生活ができない
今私がこのコラムを書いている出張先のホテルの部屋には、当たり前のように空気清浄機が置いてあります。
当然ながら人間は空気がなければ生きていけないのですが、空気が目に見えるわけでもなく、呼吸も無意識で行っており、私の幼少期(35~40年前)は空気清浄機のようなものはなく、空気の質について日頃考えることはあまりなかったように思います。
また、昨夜ホテルにチェックインする前に、近くのスーパーでペットボトルの水を購入しました。
空気と同じく、私の幼少期)には、水は蛇口をひねれば出てくるものであり、飲み水はお金を払って購入するものという認識はありませんでした。
そこにあるのが当たり前、と、空気や水に価値を感じることもなく、とただただ浪費していた時代があったのです。
そして今、「砂」も、空気や水と同じような道を辿ろうとしています。
「空気と水は分かるけど、別に砂がなくても人間は生きていけるんじゃないの?」と思われるかもしれません。
しかし、人類の文明的な生活は砂によって支えられているのです。
早い時期から砂の枯渇について警鐘を鳴らしてきたジャーナリスト・VINCE BEISER氏は自身の著書の中で、砂が人類にとっていかに貴重なものか、下記のように説明しています。
今日のあなたの生活は砂に依存している。意識していないかもしれないが、そこらじゅうにある砂のおかげで、あなたの生活スタイルが成り立っている。それも、ほとんどあらゆる瞬間においてである。私たちは砂のなかで暮らし、砂の上を移動し、砂を使って連絡をとりあい、自ら砂のなかに身を置いているのだ。
あなたが今朝目覚めた場所がどこであっても、少なくとも部分的には砂が使われた建物のなかだったに違いない。たとえ壁がレンガや木材でつくられているとしても、その土台はおそらくコンクリートだろう。表面にモルタルが塗られているかもしれないが、モルタルも大部分は砂なのだ。壁の塗料に、耐久性を高めるため、非常に細かいケイ砂が含まれていることもよくある。塗料の明るさを増し、吸油性を高め、色むらをなくすために、他のタイプの高純度の砂を混ぜる場合もある。
あなたは起きてから部屋の明かりをつけただろうが、その光の源である電球のガラス球は、溶かした砂からつくられている。よろよろと入った洗面所では、砂を原料とする磁器製の洗面ボウルの上で歯を磨いたと思うが、そのとき流した水は近隣の浄水場で砂を通して濾過されたものだ。使った歯磨き粉には含水ケイ酸が含まれていただろう。これも砂の一種で、刺激の少ない研磨剤として、歯のプラークや着色汚れを除去するのに役に立つ。
あなたの下着が適切な位置に留まっているのは、シリコーンと呼ばれる人工的な化合物でつくられた伸縮素材のおかげだが、このシリコーンの原料もやはり砂である。(シリコーンには他にもさまざまな用途がある。シリコーン入りのシャンプーを使えば髪の毛にツヤが出る。シャツのしわ取りにも使われている。また、ニール・アームストロングが履いていたのは靴底をシリコーンゴムで補強したブールであり、人類最初の足跡を月面に残した。そしてご存知のとおり、最も有名な用途としては、女性たちの胸をかれこれ50年以上にわたって膨らませてきた。)
こうして着替えて身支度を整えたあなたが職場へと車を走らせたその道路は、コンクリートやアスファルトで舗装されている。職場では、コンピューターの画面も、コンピューターを動かすチップも、インターネットに接続する光ファイバーケーブルも、すべてが砂からできている。作成した文書を印刷する用紙は、プリンターのインクの吸収をよくするために、砂をベースとした薄い層でコーティングされているだろう。貼って剥がせる付箋に使われている粘着剤さえも、砂からつくられている。
ようやく一日が終わり、あなたはワイングラスを手に腰をおろした。もうおわかりだろうか。ワインボトルやグラスは砂からできているが、なんとワインにも砂が使われている。ワインには、その透明度と色の安定性を高め、保存期間を延ばすために、少量のコロイダルシリカ、つまりゲル状の二酸化ケイ素が「清澄」剤として加えられていることがあるのだ。
砂とは、つまりは、現代生活にとってなくてはならない基本的な原料なのだ。砂なしでは、人類は現代文明を築けなかっただろう。
VINCE BEISER (2018). The World in a Grain: The Story of Sand and How It Transformed Civilization. Riverhead Books. (ヴィンス・バイザー 藤崎百合 (訳) (2020). 砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか 草思社 15-17)
我々の生活にとって砂がいかに重要な資源なのか、お分かりいただけたのではないでしょうか。
世界中で砂が枯渇し、「サンドマフィア」なる者まであらわれる始末
前述のVINCE BEISER氏の書籍が2020年3月2日に発売されて以降、
・テレビ番組 『実感ドドド!「SAND WARS~砂をめぐる争奪戦~」』NHK 2020年4月10日放送
・書籍 『砂戦争 知られざる資源争奪戦』 石 弘之 角川新書 2020年11月10日発売
・雑誌 『Wedge 2021年7月号【特集】資源ウォーズの真実 砂、土、水を飲みこむ世界』Wedge 2021年6月18日発売
と、各メディアで、資源である砂が枯渇して世界各地で争奪戦が繰り広げられている状況が、度々報じられるようになりました。
今年の2月には、インドにおいて、違法な砂の採取に反対していた男性がトラクターでひき殺されたという痛ましい事件が発生しています。
砂をめぐる、こうした“違法な砂の採掘や取引を行う、集団のこと”3)は、「サンドマフィア」と呼ばれています。
インドにおける「サンドマフィア」については、VINCE BEISER氏も自身の著書の中で、以下のように述べています。
インドは世界の砂をめぐる危機的状況の中心地であり、世界で最も闇深い砂のブラックマーケットがある場所だ。『タイムズ・オブ・インディア』紙の推定によると、砂の不正取引は年間でおよそ23億ドルもの規模にあるという。伝えられるところでは、「砂マフィア」との闘い、あるいはマフィア同士の争いによって、ここ数年で何百人もの人々が殺害されており、警察官や政府の役人だけでなく、マフィアに邪魔者とみなされた一般人も巻き込まれている。
VINCE BEISER (2018). The World in a Grain: The Story of Sand and How It Transformed Civilization. Riverhead Books. (ヴィンス・バイザー 藤崎百合 (訳) (2020). 砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか 草思社 36-37)
こうまでして世界各地で砂の争奪戦が繰り広げられる最大の理由は、「砂がコンクリートの材料だから」です。
インフラ整備など建設ラッシュに沸く発展途上国などでは、膨大な量のコンクリートを必要とします。人類が文明的な生活を求めれば求めるほど、コンクリートの需要は爆発的に増加するわけです。
コンクリートは主として、水、セメント、砂利そして砂からできていますが、セメントを化学反応させるために投入する水を除けば、硬化したコンクリートを構成する物質(セメント、砂利、砂)のうち、一般的には20~30%が砂であるとされます。
例えばインドでは、“2022年~2023年度のセメント販売量は3億9,100万トンだった”3)そうなのですが、コンクリート製造のためには、砂はこの2~3倍必要なわけで、つまり7億8,200万トン~11億7,300万トンもの需要があるということになります。
それだけ砂が乱獲され、結果として天然資源たる砂は枯渇への道を辿っています。
前述のVINCE BEISER氏の著書の内容のとおり、砂は様々な用途に使われていますが、主として「砂が枯渇している」とか「違法に砂の採取が行われている」と言われる時の「砂」とは、「コンクリートの材料としての砂」であることがほとんどなのです。
VIVANTを彩った砂漠の砂は世界を救えるか
さてこの状況で、冒頭でご紹介した膨大な量の砂漠の砂は、世界を救えないのでしょうか?
ホンゴル砂丘の砂の粒度分布を簡易調査したところ、表1のような結果が得られました。
コンクリート用砕砂(人工砂)におけるJIS規格の粒度分布と比較しており、2本のグレーの破線(JIS規格)の間にオレンジの実線(ホンゴル砂丘の砂)が入ればJIS規格に適合なのですが、完全に外れてしまっています。
コンクリート用の砂は、様々なサイズの砂粒がバランスよく含まれている必要があるのですが、ホンゴル砂丘の砂については、ほとんどが0.15mm~0.3mmの粒子といったアンバランスな粒度分布でした。
これでは、いくらホンゴル砂丘に莫大な量の砂があるとしても、それをコンクリート用に使用することはできません。
なお、ホンゴル砂丘の砂の粒度分布を見て、当社が2019年に実施したインド砂でのモルタル試験を思い出しました。
表2は、当時の試験に使用したインド砂の粒度分布表ですが、図5のS4および図6のS5は現地で生産された人工砂で、図7のS6が現地の天然川砂でした。
S6の粒度分布が、今回のホンゴル砂丘の砂の粒度分布によく似ています。
S4およびS5はほぼJIS規格に適合した粒度分布ですが、S6はJIS規格から完全に外れてしまっています。
このモルタル試験においては、目標のフローとなる水量で練り混ぜたモルタル試料を、鋼製の型枠に詰めて供試体を作製、その供試体の長さと質量の変化を確認しました。
このとき、S6を使用したモルタル試料は、目標のフローになるのにS4およびS5を使用した場合のおよそ1.3倍の水量が必要になりました。
S4およびS5の供試体は、長さ、質量とも、ほぼ同じような変化量でした。
しかしS6の供試体は、長さ、質量ともに、S4およびS5の供試体と比較して約1.4倍変化量が大きくなりました(表3、表4参照)。水量が多かった分だけ、乾燥収縮が大きく起こったということです。
コンクリートにおて、大きく乾燥収縮が起こると、ひび割れが起こってしまいます。
ホンゴル砂丘の砂の粒度分布がS6とよく似ていることから、同じような試験を行ったときに、やはり水量が多く必要になって乾燥収縮が大きく起こる可能性が高いと思われます。
つまり、ホンゴル砂丘の砂、砂漠の砂はコンクリート用には使えない、ということです。
モンゴルにおけるコンクリート用の砂事情
さて、ホンゴル砂丘の砂はコンクリート用には使えないとして、モンゴルは鉱物資源が豊富な国ですが、コンクリート用の砂の事情はどうなっているのでしょうか?
OD社が、コンクリート材料として業者から購入してこられた川砂の粒度分布資料が表5です。
2018年から2021年まで4年間にわたるデータですが、1度もJIS規格の粒度分布に合致していません。
写真1が、コンクリート用に使用されている一般的なモンゴルの川砂ですが、見た目にも砂というよりも砂利のようです。
鉱物資源が豊かなモンゴルでさえも、世界的な砂不足と同様で、コンクリート用の良質な砂は手に入らない状況なのです。
なお参考までに、JISの粒度分布から完全に外れた砂をコンクリートに使うとどうなるか、ということについて、当社がJICAから委託を受けて実施した「インド国高強度コンクリート製造の為の高品質で持続可能な人工砂製造に関する基礎調査」におけるコンクリート試験の結果のひとつをご紹介しておきます。
表6に示す図4のS3という砂は、インドでコンクリート用に使用されている人工砂のひとつでした。その粒度はまったくJISに合致していません。
この砂を使ってコンクリートのスランプ試験を行ったところ、写真2のとおりスランプくずれしました。つまりコンクリートを形成できなかった、ということです。
良質なコンクリート砂枯渇の問題を解決する「”乾式”製砂ユニットSUN」
今年創業20周年を迎えられたOD社は、モンゴル国の発展に寄与するため、コンクリート二次製品メーカーとして品質向上を目指し、日本製の型枠を導入されたり、日本のコンクリート二次製品メーカーから技術を学ばれるなど、様々な取り組みを行われてきました。
しかしそれでもなかなか満足のいく品質には到達せず、材料である砂の品質を改善する必要があるのではないか、と2021年に当社の「”乾式”製砂ユニットSUN」を核とする製砂プラントを導入されました。
川砂利を原料として、それを「”乾式”製砂ユニットSUN」に投入し、コンクリート用の人工砂を生産されています。
「”乾式”製造ユニットSUN」で生産した人工砂の粒度分布を、日々計測したOD社の資料が表7です。
ほぼすべてJISの規格に合致していることが分かります。
またOD社が「”乾式”製造ユニットSUN」で生産した人工砂でのコンクリート試験を行った結果、もし100%「”乾式”製造ユニットSUN」で生産した人工砂のみを使用すれば、28日目の圧縮強度が60~70N/m㎡のプレキャストコンクリート生産が可能になることが分かったそうです。
この圧縮強度60~70N/m㎡のプレキャストコンクリートとは、世界的を参考にすると、表8のようなコンクリート建築物であり(OD社調べ)、これらをモンゴル国内で生産できる可能性があるということなのです。
VIVANTの大ヒットによって、日本人にとってより身近になったモンゴル。
ウランバートル中心部は急速な都市化が進んでいます。
さらなるモンゴル国の発展のためには、良質なコンクリート砂の安定的かつ持続可能な供給が欠かせないのです。
“乾式”製砂ユニット SUN
コンクリート用の良質な砂が枯渇しつつある現代において、砕石等を原料として、簡単に高品質な人工砂を生産できます。
製砂用粉砕機に分級防塵装置をダイレクトに接続したコンパクト設計。
乾式なので環境にも優しく、付帯設備に巨額の投資をする必要もありません。
海外でもご利用いただけるほど、操作やメンテナンスも簡単です。
1) “「VIVANT」最終回は驚異の19・6%!大幅4・7P増の番組最高で有終の美「らんまん」超え今年1位”.Yahoo! ニュース.2020-08-01.https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamura-ichiya/20200801-00191016/,(参照2023-09-20).
2)”ホンゴル砂丘”. Wikipedia. 2022-12-06. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AB%E7%A0%82%E4%B8%98,(参照2023-09-20).
3)”砂マフィア”. Wikipedia. 2022.12-30. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E3%83%9E%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2 (参照2023-09-20).
終わりに Vince Beiser氏への感謝
今回のコラムでは、Vince Beiser氏の著書から、いくつかの文章を引用させていただきました。
2018年3月、インターネット上でVince氏の記事を拝読しました。ベトナムにおける砂の無秩序な採掘でメコンデルタ地帯の浸食が進み、人間の生活を脅かしているという内容でした。
製砂メーカーとして、また2016年からはインドでまさに砂の違法採取を目の当たりにしてきた私としては、早い時期から世界における砂の枯渇問題を取材してこられたVince氏とぜひお会いしたいと、メールをさせていただいたところ、私の突然の申し出を快諾いただき、2018年5月にVince氏の活動拠点であるロサンゼルスでお話をお伺いすることができ、以降懇意にさせていただいています。
今回このコラムを執筆するにあたり、Vince氏に著書からの文章の引用許可をお願いしたところ、快く承諾いただきました。
Vince氏の著書文章の引用がなくては、このコラムは味気ないものになっていたと思いますので、Vince氏には心から感謝申し上げます。
砂と人類の関係性について、多くの学びと発見を得られるVince Beiser氏の著書、ぜひご一読ください。
I quoted some sentences from the book by Vince Beiser in this column.
I read an article on the internet by him on March 2018. The article was the sand crisis in Vietnam. It was very interesting article for me because I saw the sand crisis on my own eyes in India as a sand making equipment manufacturer.
I sent an email to him asking to have a meeting. He accepted my request on such short notice. Then, finally I could meet him at Los angles on May 2018. It was one of the most precious time in my life.
When I was going to write this column, I thought to want to quote some sentences from his book. Then, I sent an email to him asking to do that. He accepted my request again.
I really appreciates him. If I didn’t quote his sentences, my column would not be so interesting at all.
Thank you so much, Vince san.
I recommends to read his book because you will take a lot away from his book.
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